僕が最初に見たつか作品は、BSで放送していた「売春捜査官」でした。深夜のことで、さほど見る気もなく、適当なところで寝ようと思っていたにも関わらず、気がつくと引き込まれるように見入ってしまいました。
その時、ちょうど近くの劇場で「ロマンス」がやっていたこともあり、さっそく劇場に向かい…そこからはもう、舞台も小説も次々と見ていきました。
そしてオーディションを受け、研究生になり、最初の公演が「売春捜査官」「ロマンス」の二本立てでした。僕は「ロマンス」に端役で出させてもらっただけでしたが、「売春捜査官」も毎日先輩たちの稽古を見続けていました。この時から、全てのセリフが完璧に脳裏に刻まれています。
半年後、正式に劇団員になり、最初に言われたことが「大分に行け」という一言でした。ずっと憧れていた、「売春」キャストの皆さんとの稽古の日々。残念ながら、力不足で一緒の舞台に立つことは叶いませんでしたが、この日々は一生の思い出です。
大分の稽古で、役者としては「才能ない」と言われ、「お前は本を書け」と言われた僕でしたが、そんな話をした去り際、つかさんから「お前は、オレの芝居で何が一番好きなんだ?」と聞かれました。僕は迷わず「売春捜査官です」と答えました。
たぶん、役者としての最後の花道のつもりだったのでしょう。「売春捜査官」の公演を、犯人役でやらせてもらえることになりました。(その後もズルズルと、つかさんが亡くなるまで役者は続けていましたが…)僕の劇団一年目は、この作品とともにあったと言っても過言ではありません。
北区つかこうへい劇団では、「売春捜査官」は研究生の授業のテキストとしても使われていました。たまにレッスンを受け持って、僕が講師をすることもありましたし、そうでなくても毎年の卒業公演で嫌というほど見ます。戯曲の隅々まで読み尽くし、身に染みつき切ったこの作品…。でも、きちんと演出の立場で作るのはこれが初めてです。
ただ単に、キッカケを再現するだけなら完璧にできます。セリフの呼吸も、音楽の上げ下げも、全てが頭に入っています。でもそれは、9PROJECTのやり方ではありません。この身に染みつき切ったイメージを払拭し、新鮮に戯曲に向き合うことができるか…それが何よりの課題です。
そして何よりも、僕たちには2018年、2020年と上演してきた、初演版「熱海殺人事件」の知見があります。「熱海」の原形から、20年後の「熱海」へ…。原形を知ったからこそ、新たに向かい合える「売春」があると思うのです。
「売春捜査官」にも、いくつものバージョンがありますが、大分市つかこうへい劇団で全国公演をしていた当時の戯曲を使用します。いつも通り、戯曲の脚色はありません。あくまでも真っ直ぐに戯曲に向き合い、今の自分たちだからできる作品の姿を見つけていきたいと思っています。
今年は、メンバーの高野と小川がつかさんと出会って、二十年の節目の年です。その年に、懐かしき「売春捜査官」を上演することは、初心を見つめ直す良い機会ではないかと思っています。
そして実は…高野と小川は…「売春」をほとんどやったことがないのです!他の人たちがやっているのを嫌になるほど見ていて、セリフも覚えているのですが、実はやっていないのです!
そんなメンバーたちによる、新たな「売春」の誕生にどうぞご期待ください!
演出=渡辺和徳